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時代に流されない。自然の力をひきだす、酒造り。
Kidoizumi_Sake Brewey

後編
「旨き良き酒」を未来へとつなぐ、新 木戸泉物語

Soul of Sake Brewery, Kidoizumi

前編 ブレない酒造りを凛と貫く。いすみに宿る蔵魂。

恵まれた食卓が育む、旨き良き酒へのこだわり


木戸泉酒造の蔵元、荘司家の5人兄弟の長男である5代目・勇人氏は、
「長男だしいつかは、蔵を継ぐのかな…くらいに考えていた」。

荘司家の日々の食卓には、自然栽培米や自然農法の野菜、添加物を含まない食品が食卓にならび、
それを、あたりまえのこととして食べてきた。
「随分恵まれた環境で育てられてきたんだ、ということを、
学生時代一人暮らしをして初めて気づかされました」

木戸泉3代目の祖父は、日本酒に添加するサルチル酸の危険性にいち早く気づいて使用廃止を決めた人。
父である4代目文雄社長は、自ら自然栽培米造りを10年近く手がけたキモ入りの自然派。
母親は、好き嫌いなくなんでも食べられるようにと、偏りのない献立てつくりに気を配ってくれていた。

ジャンクフードも食べるし嫌いなわけではない。でも、実家ではあたりまえだった、
良いものを食べ続けることが容易ではないことに気づかされた。

「子どもの頃の、環境って大事だなと思いますね」

自然醸造による「旨き良き酒」造り。
先々代から揺らぐことのない木戸泉の蔵ビジョンを繋いでゆくことの意義を、
日々の食卓を通して知らず知らずの内に学んでいた。

「こだわりに納得できるからこそ、守って行きたい。」
そう思える環境に育ったことを、感謝している。


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朝6時。木戸泉 酒蔵の門で、じっと見守っている、杉玉。

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朝一番の仕込みが一段落すると、蔵人全員で朝食。同じ釜の飯を分け合い、いただくのも、大切なこと。

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4代目が自家精米にしたときにできる自然農法米の米ぬかを使った、自家製ぬか漬け。ふわり、甘酸っぱいぬか床の良い香りが。蔵人皆と食べるのだそう。

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この酒蔵に、目に見えない、酵母がたくさんいる。肌で、五感で感じながら、丁寧に、真摯に自然の力と向き合う。

木戸泉は、いすみの水とともにある。


「酒造りは水商売。いすみの水が木戸泉の酒になります」
酒造許可は蔵ではなく、地に降りる。ということを教わった。

木戸泉では洗米の水は蔵の敷地の井戸水を、仕込み水は、
蔵から5キロほど離れた宮清水という土地の井戸水を、2トントラックで二日に1度汲み上げて使っている。

「敷地内の井戸水は硬めだったので、周囲の井戸水を調べて尽くして水道をさぐり、
やっとの思いで中硬水の今の井戸水を探りあてたと聞いています」
いすみの水あっての酒蔵。まさに、地酒だ。

4代目は千葉県酒造組合の会長として、5代目も青年会議所や商工会青年部のリーダーとして、
さまざまな活動に取り組み地域をもり立てている。

地元いすみ産の酒造好適米「総の舞」を使った純米酒「鐵の道」
は、地元ローカル線を支援する全国共通銘柄酒。
今年で3回目になる地域ぐるみのイベント「酒蔵開き」も、年々盛大になり、
1000人で乾杯と称して、地域住民はもちろん、遠方からかけつける木戸泉ファンらが集う。
過疎化が進む地方にあって、地域に密着した酒蔵イベントに寄せられる期待は大きい。


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井戸水を汲みにいく、トラック。水は酒造りにおいて要のひとつ。

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井戸の隣に鎮座している、神様に出会う。仕込み初めには、蔵人皆でお詣りをするそう。木戸泉にとって大切な神様だ。

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酒造りに対する研鑽はもちろん、地域の活性化にも力を注ぐ、5代目蔵元杜氏。その凛とした背中に、地域や酒に対する熱いがにじみ出ていた。

自然醸造による「良き酒」の追求


健康や安全をテーマに掲げて先代が挑んだ「良き酒づくり」。
昭和42年には、添加物はもちろん、原料となる米も農薬や化学肥料を一切使わない
自然農法米を100%使用した自然醸造酒「自然酒」の製造も始めている。

先代の意思を受け継ぎ、迷うことなく木戸泉の酒造りを率いてきた4代目。
だが、子どもの頃は、酔っぱらいを目にする機会も多く、
「酒はキチガイ水だと思って大嫌いだったし二十歳までは蔵を継ぐ気もなかった」そうだ。
学生時代に酒の味を知り、「さて、親父はどんな酒を作っているのかなと興味が湧いた」ところで、
耳にしたのが「木戸泉の酒は飲んでも悪酔いしない」という言葉。

「調味薬や防腐剤などの添加物を一切使わない酒だったからだと今でも確信している」と語る4代目。
「親父は、なかなか良い酒を造っているんだな」と、
こだわりを継いでゆきたいと思った。

自ら、自然農法による米造りを10年にわたり体験した4代目は
「土の力だけで作物は十分に育つということを実感」。

現在、木戸泉が扱う酒米の25%は自然農法米だが、
「いずれは全て自然農法米だけで、というのが理想です」。


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地元の米や、自然農法の米などを積極的につかうなど、米にもこだわりがある。

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醸造から、ラベル貼りまで。ひとつひとつ、丁寧に、美しく。

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厳しい作業の中、酒粕の香りに顔がほころぶ。やわらかく、味わい豊かな酒粕は人気商品。リピーターも多いのだそう。

蔵元杜氏ならではのやりがいに、挑む。

5代目勇人杜氏は木戸泉酒造の専務として経営の一端を担う蔵元であると同時に、
酒造りの現場を仕切る杜氏を兼任する、いわゆる蔵元杜氏だ。

かつての酒蔵のシステムは、蔵を経営する蔵元と、酒造りは、杜氏を頭に米を蒸す釜屋、
麹を作る麹屋、酒母を造るモト屋等、各々の分担が決まっている完全分業制が普通であった。
最近は、人材不足もあり、中小の蔵では蔵の跡取りが杜氏もこなす、蔵元杜氏という新しい酒蔵の形態が
できつつある。

10月から3月の約半年間、経験も年齢もさまざまな蔵人たちをまとめ、指揮を執るのも杜氏の役目だ。
同時に、4代目社長とともに、蔵の方針、ビジョンを練り、広報や販路の開拓もする。
蔵元杜氏の仕事は多岐に渡り、忙しさを極める。

「それだけやりがいはありますよ。」

今年40才となる勇人氏は、いわゆる、バブル後の停滞する日本経済の中で育った世代。
「だからこそ、僕らの世代は、自分たちで何かを仕掛けないかぎり、待っていても何も始まらない、
という危機感があります。」


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酒造りのもととなる、酒母を仕込むため、蒸したての米を次々と運んでいく。時間とタイミングが勝負。蔵の中でも、外でも、全力疾走だ。

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「酵母は生き物。酒造りは、毎回が挑戦。毎回学ぶ事がある。」という杜氏。感覚と技術を磨きながら、決して妥協しない。

時代を見据え、未来を紡ぐ酒づくり

全盛期に比べると、日本酒を取り巻く環境は、まだまだ厳しい。が、
木戸泉には、昔ながらの根強いファンが多い。

年に一度、11月末、蔵の入り口に吊るされた大きな酒林を、
地域住民や全国から集まった木戸泉ファンとともに新しく作り換えるイベントは、
すぐに定員が埋まってしまう。

実は、木戸泉の営業を統括する敏腕営業マンも、レストランで出会ったアフスの古酒の味に衝撃を受け、
定年後、木戸泉におしかけ入社してしまったという熱烈な木戸泉ファン。
昔ながらの日本酒、濃醇で多様な酸が食事を引き立てる木戸泉の酒の魅力を
もっと多くの人に理解してもらいたいと考える5代目勇人氏。

「古酒としての魅力が強いアフスも、これからは新酒のアフスを、
多様化する食に併せられる食中酒として、日本酒の新ジャンルを確立していけたらと考えています。」

未来を見据えた新しいファンの開拓を掲げ、木戸泉物語の第2幕を開けようとしている。


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酒造りには連日大変な作業が続く。その一瞬いっしゅんに、どんなおもいを込めているのだろう。

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火入れのため、瓶詰めを終えた酒が湯の中へ入る。気温と品温をみながら、感覚を研ぎすませて適温を判断する。これも蔵人の技。

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火入れを終えた、酒。湯気の中に見える酒の琥珀色が、美しい。

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4代目と杜氏を務める5代目。口には出さないが、お互いへの尊敬の念が、ほろほろと、会話にかいま見れた。

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創業当時からの酒蔵の煙突が、おおらかに空を仰ぐ。昔も、これからも、木戸泉の挑戦は続く。

用語解説

※ 酛(モト)=酒母・・米と米麹、水を合わせて糖化させ、その糖をアルコールに発酵する酵母を
 大量に培養した酒づくりの格となるもの。

 木戸泉では、天然の生の乳酸菌を用いて高温で酒母を仕込む高温山廃酛で、麹菌・乳酸菌・酵母菌の3つの菌が
 のびのび発酵する酒母造り手法を、50年以上変わらず守り続けている。


※乳酸菌・・乳酸を生み、雑菌の繁殖を防ぐ酒母造りに欠かせない菌。

 木戸泉では、700種類ある乳酸菌の中から日本酒造りに関係する2種類の菌を、発見した細菌学者から
 株分してもらい、麹汁など自然由来のもので純粋培養したものを、代々使って いる。
 「AFS」を筆頭に、乳酸由来の酸味が際立つ木戸泉の酒の味を特徴 付けている。


※酵母菌・・糖を糧にアルコールを生成し、酒に変える要の菌。

 木戸泉では、日本醸造協会がこれまで発表してきた酵母の中でも、三大古参のひとつと言われる
 協会7号酵母を、天然由来の培養液で自然培養している。発酵力が強く、濃醇で骨太な食中酒に向く酒になる。
 近年、華やかな香りを放つ吟醸酒向けの酵母も次々発見されたが、浮気はしない。